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仙台地方裁判所 平成6年(わ)369号 判決 1995年6月09日

被告人

佐藤晧夫

年齢

昭和一七年三月二四日生

本籍

宮城県柴田郡川崎町大字前川字本町六五番地

住居

同町大字前川字中道北八七番地の一

職業

建設会社役員

弁護人

増田隆男

検察官

新倉英樹

主文

被告人を懲役一〇か月及び罰金一五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、宮城県柴田郡川崎町大字前川字中道北八七番地の一に居住し、同町大字小野字西田一〇番地に居住する実父佐藤勇光と仙台市太白区長町五丁目四七番一二及び同一四の宅地二筆及び右宅地上の共同住宅三棟等を共有していたが、平成二年一〇月三〇日、自己の持分については売主として、佐藤勇光の持分についてはその代理人として、右土地及び建物を六億四九四九万円で売却した。

第一  被告人は、自己の所得税を免れようと企て、右譲渡収入の一部を除外する方法により所得を秘匿した上、平成二年分の総合課税の所得金額が三三七万七〇〇〇円であり、分離課税の長期譲渡所得金額が一億三三九九万四〇五二円であったにもかかわらず、情を知らない税理士大宮裕一を介して、平成三年三月一六日、同郡大河原町大谷字末広一二番地の一所在の大河原税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総合課税の所得金額が三三七万七〇〇〇円であり、分離課税の長期譲渡所得金額が三一〇一万九八四〇円であって、これらに対する所得税が合計六二〇万四一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を前日ころ発信した郵便により提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額である三一四九万八八〇〇円と右申告額との差額二五二九万四七〇〇円を免れ、

第二  佐藤勇光の財産に関し、同人の所得税を免れようと企て、同人の代理人として、第一記載の方法により所得を秘匿した上、同人の平成二年分の総合課税の所得金額が七五万六四四三円であり、分離課税の長期譲渡所得金額が一億三三九九万四〇五二円であったにもかかわらず、情を知らない税理士鈴木宗夫を介して、平成三年三月一五日、前記大河原税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総合課税の所得金額が七五万六四四三円であり、分離課税の長期譲渡所得金額が三一〇一万九八四〇円であって、これらに対する所得税額が合計五七四万四六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を前日ころ発信した郵便により提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額である三〇九二万四五〇〇円と右申告額との差額二五一七万九九〇〇円を免れさせた。

(証拠)

犯罪事実全部について

一  被告人の公判供述

一  被告人の検察官調書四通(乙八ないし一一)及び大蔵事務官に対する質問てん末書六通(乙二ないし七)

一  被告人作成の申述書(乙一六)

一  松本眞明(甲一五)、島田雄一(四通、甲二〇ないし二三)及び佐藤慶子(甲二四)の各検察官調書

一  佐藤勇光の大蔵事務官に対する質問てん末書(甲三八)

一  島田雄一作成の申述書(甲三六)

一  佐藤慶子作成の申述書(甲三七)

一  株式会社七十七銀行本店営業部業務第二課長代理千葉順作成の証明書(甲一六)

一  神田信用金庫中野支店支店長代理菅秋男作成の預金取引照会に対する回答書(甲一七)

一  株式会社力建経理部副部長尾﨑勲男作成の証明書(甲一八)

一  閉鎖登記簿謄本四通(甲八、一〇ないし一二)、全部事項証明書(甲九)

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲三)

冒頭の事実について

一  宮城県柴田郡川崎町長作成の戸籍謄本(甲一三)

冒頭の事実及び犯罪事実の第二について

一  佐藤勇光の検察官調書(甲一四)

犯罪事実の第一について

一  大宮裕一作成の申述書(甲六)

一  大宮裕一の大蔵事務官に対する質問てん末書(甲二七)

一  大蔵事務官作成の長期譲渡所得調査書(甲三四)

一  平成二年分所得税の確定申告書等一綴(平成六年押第九七号の1、甲五)

第二の犯罪事実について

一  鈴木宗夫の大蔵事務官に対する質問てん末書(甲二八)

一  大蔵事務官作成の長期譲渡所得調査書(甲三五)

一  平成二年分所得税の確定申告書等一綴(平成六年押第九七号の2、甲七)

被告人及び佐藤勇光の長期譲渡所得金額の認定及びその主な証拠については末尾添付の別紙(二枚)のとおり。

なお、括弧内は本件記録中の証拠等関係カードの検察官請求証拠番号である。

(法令の適用)

前記第一の行為は所得税法二三八条一項に、第二の行為は同法二四四条一項、二三八条一項にそれぞれ該当する。各罪につき情状により同法二三八条二項を適用する。いずれも定められている刑の中から懲役刑及び罰金刑を選択する。これらの罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯罪の重い第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑にいては同法四八条二項により各罪につき定められた罰金額を合算して処断する。その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一〇か月及び罰金一五〇〇万円に処する(求刑懲役一〇か月及び罰金一六〇〇万円)。

右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日かち三年間右懲役刑の執行を猶予する。

なお、刑法については、平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文前段により同法による改正前の刑法を適用した。

(量刑の理由)

本件は、被告人が自己の経営する会社の借金を返済する資金を捻出するため、実父と共有する不動産を売却したが、虚偽の代金額を記載した売買契約書を作成するなどして、自己の譲渡所得を過少申告して所得税二五〇〇万円余りを脱税し、また、代理人として実父の譲渡所得を過少申告してその所得税二五〇〇万円余りを脱税させたという事案である。その脱税額は多額であり、脱税率も高く、脱税方法も巧みであり、被告人は、資産を有し、あるいは所得のあるものが果たすべき社会的責任を軽視していると言わざるを得ず、厳しく非難されなければならない。

しかし、被告人は、本件犯行の発覚により、多額の納税を余儀なくされるなどして反省し、自己の社会的責任を自覚するようになってきたこと、未だに本税についても完納していないものの、納税に努めていること、罰金前科があるのみで、同種前科はないことなどの事情も認められる。したがって、主文のとおり刑に処した上、懲役刑についてはその執行を猶予するのが相当であると判断した。

(裁判官 秋葉康弘)

別紙

(被告人及び佐藤勇光の長期譲渡所得金額の認定とその主な証拠)

1 譲渡収入

本件土地建物の売却価格 6億4949万円(甲21、22、乙8、10)

被告人及び佐藤勇光の収入割合 各2分の1

被告人及び佐藤勇光の各譲渡収入

<省略>

2 必要経費

(1) 概算による土地取得費

(本件建物の売却価格)=(確定申告書記載の価格) 6528万円(甲5、7)

(本件土地建物の売却価格)-(本件建物の売却価格)=5億8421万円

(本件土地の売却価格)×0.05=2921万0500円

*租税特別措置法31条の5(本件当時の条項。以下同じ)参照。

被告人及び佐藤勇光の土地取得費割合 各2分の1

被告人及び佐藤勇光の土地取得費 1460万5250円

(2) 建物取得費

(建物等の取得価格)-(減価償却累計額)=6370万4031円(乙16)

被告人及び佐藤勇光の建物取得費割合 各2分の1

被告人及び佐藤勇光の各建物取得費 3185万2016円

*所得税法38条、49条1項参照

(3) 譲渡費用

<省略>

被告人及び佐藤勇光の譲渡費用割合 各2分の1

被告人及び佐藤勇光の各譲渡費用 1415万8940円

(4) 被告人及び佐藤勇光の各必要経費

(概算土地取得費)+(建物取得費)+(譲渡費用)=6061万6206円

3 特定事業用資産買換え特例による場合の長期譲渡所得金額

(1) 買換資産の取得価格

(買換資産の取得価格)=(確定申告書記載の金額) 4億円(甲5、7)

被告人及び佐藤勇光の取得割合 各2分の1

被告人及び佐藤勇光の取得価格

<省略>

(2) 特例による長期譲渡所得金額

<1> 特例により譲渡があったものとする部分の譲渡収入

(譲渡収入)-(買換資産の取得価格)×0.8=1億6474万5000円

<2> 特例により譲渡があったものとする部分の必要経費

(必要経費)×(特例により譲渡があったとする部分の割合)

<省略>

特定事業用資産買換え特例による場合の長期譲渡所得金額

(<1>の譲渡収入)-(<2>の必要経費)=1億3399万4052円

*租税特別措置法31条1項、37条1項、5項参照

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